最先端の技術をコンパクトに詰め込んだ4K超高解像度の小型ハイスピードカメラ
こんにちは。IMAGICA GROUP 公式note編集部です。
当社グループでは”映像”を軸に、エンタテインメントと産業の2つの分野にて事業を展開しています。
前回は、産業分野に向けて、製品・サービスを提供する、当社グループのフォトロンの設計、開発、製造、販売、保守を手掛けるハイスピードカメラの魅力や仕組みについてご紹介いたしました。
そんなハイスピードカメラの新製品が2024年7月11日(木)に発売となります。
4K解像度を実現した超高解像度でありながら、手のひらサイズのコンパクト高速度カメラ「FASTCAM Mini R5-4K」。
今回は、このハイスピードカメラの新製品をご紹介するとともに、企画、開発に携わった2名の担当者にインタビューを実施。開発の裏側と製品に込めた想いを前後編でお届けします。
手のひらサイズのハイスピードカメラで4K解像度を実現
ー4K解像度を実現した超高解像度・コンパクト高速度カメラ「FASTCAM Mini R5-4K」とはどんなカメラですか?
本川)フォトロンでは、手のひらサイズで超軽量のコンパクトカメラ、FASTCAM Miniシリーズを展開しています。撮影性能は維持したまま、筐体(カメラボディ)は小さくて軽いハイスピードカメラです。こちらを踏襲する形で、小型・軽量はそのままに、解像度の高い4Kカメラを高解像度モデルとして今回開発しました。フォトロンのハイスピードカメラは、自動車衝突試験などでも活用されておりますが、小型軽量モデルで、かつ広範囲が撮影できる4K対応カメラはお客様からも強い要望をいただいておりました。
ーどのようなシーンでの利用を想定していますか?
本川)ターゲットとしているのは、自動車衝突試験と"流体”です。自動車衝突試験は、自動車メーカーが自動車の安全性や性能を確かめるために、実際に車を衝突させて実験をしています。実験に使用した車は壊れてしまうので、廃車を余儀なくされてしまいます。再資源化の動きも高まってはいますが、環境に配慮し、試験回数をなるべく減らしたいというのがお客様のご要望にありました。そのためには、1回の実験でデータをたくさん撮っておくこと。終わってから、「ここが見たかった」ということがないように、さまざまな角度から撮影をしておく必要があります。その点、視野が広がる4Kの超高解像度であれば、お客様の負担を減らすお手伝いが可能です。
ー"流体”はどのような場面で使用されるのでしょうか?
本川)流体は液体・気体の流れを可視化して解明しようとする研究分野です。主に顕微鏡を通して粒子の動きを観察するので、やはり小型・軽量は必須。さらに画角が広ければ、液滴を垂らした際にも、垂らした部分だけではなく、周りにどう伝搬していくのか、全体を1台のカメラで追うことができます。いままで2台のカメラを使用していたお客様にとって、幅広く観察できるのはメリットであるという喜びのお声もいただいています。
高橋)開発を担当している私も何年か前に、実際に使用されているお客様のもとに伺ったことがありました。顕微鏡の上に大きなハイスピードカメラを倒立させ、レンズを真下に向け、目線よりも高い位置で使われていたんです。お客様ご自身は慣れていらっしゃるのか、特に不便ともなにもおっしゃってませんでしたが、その現場を見た私の第一印象は「とにかくもっとカメラを小さくして、お客様の使い勝手をよくしなければ!」ということ。お客様によって、撮影対象(捉えたい現象)が異なるため、開発担当者が意図しない驚くような使い方をされていることも多い。なるべく現場に足を運んで、お客様のご要望のさらにその先を見据えたいと思っています。
構想から5年、高い耐G性と使いやすさにこだわった機能を搭載してリリース
ー小型・軽量を維持したまま、解像度をあげるというのは難しい挑戦だったと思いますが、構想から発売に至るまでどのような流れがあるのでしょうか?
高橋)本製品に関しては、2019年から本格的に構想を開始しました。miniには旧シリーズでAX 、WX、UXと3機種ございますが、今回は搭載しているプラットフォーム自体を新たに作成しなおしています。世の中にある新しい技術を用いたらどんな画が撮れるか、さらに未来に繋げていくために搭載すべき機能はなにか。パズルのピースを嵌め込むようなイメージです。製品仕様を満たしながら技術的に成立する条件を探る行為を「フィージビリティ・スタディ」といいますが、こちらに1年くらい、さらにもう1年くらいかけて試作品を作ります。この試作品を元に製品として仕上げていき、検証・チェックなどの作業にも1年ほどかかります。フォトロンのハイスピードカメラは米沢にある工場で一つ一つ手作りで量産していますので、工場へ作り方や検査の仕方などを教える製造移管というプロセスもあります。だいたい、カメラの新製品の開発には2~3年ほど、今回は4年ほど費やしました。
ー小型・軽量以外に特筆すべき点があれば教えてください
本川)自動車衝突試験をターゲットに入れていたので、耐衝撃性能(耐G性能)も必須でした。スレッド試験という、車の衝突を簡易的に再現する試験にもハイスピードカメラは用いられています。スレッドというのは台車(そり)を意味し、台車の上にボディの骨格とダミー人形を載せてレールの上を走らせて衝撃を加える試験です。ダミー人形に加わる傷害値を計測することで、安全装置の性能評価を目的にしています。このスレッドにもカメラを搭載するので、壊れないよう強度の高い構造をお願いしていました。
高橋)耐G性能の維持は難しかったですね(笑)。ハイスピードカメラは過酷な環境で使われることが多いんです。お客様によっては砂漠の中で高温で使用するといったこともあります。そのような環境下でもきちんと動作させなきゃいけない。大変でした…。
ほかには、イーサネットの速さにもこだわりました。イーサネットはカメラとPCのような外部装置とを接続する通信規格のこと。撮影したデータは一旦カメラの内部に保存しますが、お客様はPCなどにダウンロードして、モニター等で観察し研究開発に使用します。このカメラからPCなどへ出力するときの速度が、従来の1GBイーサネットから10GBイーサネットへ、つまり10倍の高速データ転送を実現しました。ハイスピードカメラのデータサイズはもともと大きいのですが、4Kなら特に大きくなります。より速く必要なデータをPCなどへ移すことができるようになったわけです。
高橋)また、この機能はオプションではありますが、レンズの調整(画角)を遠隔で行うことも可能です。自動車衝突試験では天井から吊るして使うこともあるようです。固定されていても、あとから調整できるように配慮しました。
ーまさに、「かゆい所に手が届く」カメラですね!
次回はハイスピードカメラにかける想いや今後の未来について語る予定です。最後までお読みいただきありがとうございました。
●後編はこちら↓
本記事は2024年4月に実施したインタビューをもとに掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございます。