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気象予報士としての使命感が、新たな挑戦へと突き動かし続ける |ウェザーマップ 長谷部愛さんインタビュー後編

テレビやラジオなどでお馴染みの天気予報。気象予報士派遣や気象情報の提供および配信を行う株式会社ウェザーマップもIMAGICA GROUPのグループ会社です。

今回は、ウェザーマップ所属の気象予報士として活躍しながら、東京造形大学で天気とアートをからめた講義も手がける長谷部愛さんにインタビュー。前編では、長谷部愛さんの生い立ちから難関試験に合格し、気象予報士としての使命感に目覚めるまでをご紹介しました。後編では、「天気とアート」をテーマに教鞭を執り、初の著書を上梓するなど、活躍の場を広げる長谷部さんの大学での講義や著書に込めた想い、今後目指していきたいことをお届けします。

前編はこちら。


Profile: 長谷部 愛(はせべ あい) 気象予報士・東京造形大学 非常勤講師 信州大学教育学部卒業後、テレビ・ラジオ局員として番組制作・キャスター・リポーターを経験したのち2012年に気象予報士資格を取得。翌年からTBSラジオ、Yahoo! 天気・災害の動画などで気象キャスターを務める。2018年から東京造形大学特任教授として教鞭を執る(2024年度から非常勤講師)。2024年2月に初の著書となる『天気でよみとく名画』(中央公論新社)を上梓。戦争の次世代の語り部としての活動も行っている。ウェザーマップ所属。1981年、神奈川県藤沢市出身。

「天気とアート」という新たな視点での授業に挑戦

気象コーナーではどうしても「大雨や強風に注意してください」など、注意を喚起する内容が多くなりがちです。そのなかでも、できる限りアンテナを張り巡らせて天気に関する雑学をストックし、季節に適した内容をプラスしてお伝えするようにしていました。私はラジオの気象コーナーを担当していますが、短い時間に必要な情報を伝えつつ、リスナーの方々にくつろいでいただけるトピックを毎回盛り込むようにしているため、知識量も重要となります。試行錯誤しながらペースをつかめるようになって5年が過ぎた頃、東京造形大学から思いがけない申し出を受けることになります。

「天気や環境とアートをテーマに、学生に向けて講義をしてほしい」

気候変動や環境に配慮したアートづくりが叫ばれているなかで、学生に環境やサステナブル(持続可能)の視点を身に付けてもらうことが狙いで、お題は“サステナブル”、あとは自由に考えてほしいというものでした。東京造形大学の山際康之学長によれば、「少しでも役に立つ情報を多くの学生に届けたい!」という熱意とやる気が私から溢れ出ていたとか(笑)。

 突然の申し出に、「これは面白いことになりそう!」と胸が高鳴りました。もともと絵画やマンガ、アニメが好きで、気象予報士になってから天気に着目しながら鑑賞することが増え、数々の新たな発見があったのです。たとえば、『モナ・リザ』は背景に水蒸気の効果を活かしていますし、『最後の晩餐』では窓から差し込む太陽光によってキリストに目が向くよう、構図に工夫がなされています。一大ブームとなったマンガ『鬼滅の刃』でも、天気にまつわる言葉が巧みにストーリーに組み込まれるなど、気象にちなんだ芸術表現は数え切れないほどあります。多彩な空の色の仕組みや雲の形、気象現象を紹介することで、美大生にとっても表現の幅を広げることにつなげられると思いました。

 そこで、天気とからめて語れることはないか、意気揚々と古今東西の風景画に関する資料を探ったのですが、改めて調べると、気象とアートという視点での研究は世界的にも少なく、国内では一般的な読み物もあまりありません。東京造形大学は「造形」の観点からデザインと美術を総合的に捉える大学で、デザインや映画制作など多岐にわたる専攻領域があり、よりアートに特化した幅広い内容にする必要があります。資料集めに悪戦苦闘しながら研究者の方にも話を聞き、美術的、気象的に齟齬がないように構成を詰めていきました。

 実際に教壇に立って驚いたのは、「気象学的なことを初めて知った」「新しい気付きになった」という学生の声が非常に多かったことです。気象学の観点から美術表現、美術鑑賞を考えるというのは、大きな可能性を秘めた分野であることを確信しました。

 おかげさまで授業は今年で7年目を迎えます。世界的なアーティストがSDGsを意識した作品を発表するなど、アートの世界では毎年のように新たな表現が生まれ、気候も年々変わっています。最新データも盛り込み、さらに内容を充実させるべく、ますます身が引き締まる思いです。学生の皆さんには、授業をきっかけに、貪欲に知識を得ることが作品制作の糧になり、社会に出たときに役立つことを少しでも感じてもらえたら嬉しいと思っています。

~長谷部愛さんの『サステナブルデザイン論』ってどんな授業?~ 
受講した学生さんに聞いてみました!

◆幅広い美術鑑賞の視点を身に付けたいと受講しました。先生がいつも楽しそうに講義をしてくださり、その国の風土や気候によって作品の傾向が変わるということに興味を惹かれました。色々な芸術表現に触れて視野を広げ、その土地特有の環境から生まれた素材や技法を使った表現について考えていきたいと思います。

(彫刻専攻2年 Jさん) 

◆高校時代から雲について研究するほど天気に興味があったので、迷わず受講を決めました。作品に描かれた雲から時代背景を推察したり、各国の天気マークの歴史を知ったり自分たちでオリジナルのマークをデザインしたりと着眼点がユニーク。どんな質問にも明快に答えてくださり、本当に楽しい授業でした。その土地の雨や雲の視点に立った作品づくりに取り組んでいきたいと考えているので、先生にはこれからも相談に乗っていただきたいです。

(絵画専攻2年 Nさん)

天気に着目した新しいアートの楽しみ方を伝えたい

2024年2月には初の著書『天気でよみとく名画 フェルメールのち浮世絵、ときどきマンガ』(中央公論新社)を上梓。旧知の気象学者や学内外の西洋美術・浮世絵の専門家に助言をいただきながら、これまでの授業の集大成として、納得のいくものにまとめ上げるのに3年半かかりました。本を出す以上は、気象予報士だからこその、今までにない視点の本をつくりたい。読んだ方に楽しんでもらえて、かつ新たな気付きを得られる内容にしたいと考えていました。
 
本著では、描かれた雲から降水確率を読み解いたり、その時代、その土地だからこそ描けた気象現象や、アニメやマンガの気象にちなんだ表現に触れたりと、バラエティに富む内容になるよう心がけました。宗教画や肖像画中心のルネサンス以降、実際の景色や風景を描いたものがジャンルとして確立しはじめた17世紀オランダ絵画以降を取り上げ、日本と同じ島国で共通の気候条件を持つイギリスの絵画、フランスを中心とした印象派、浮世絵の四部構成に、補章としてアニメやマンガ、巻末には気象用語の解説もつけました。
 
読んでいただいた方からは、ありがたいことに「これを持って美術館へ行って作品を見たい」「この視点自体が新しい」「こんな風に絵画を見ることができるんだ」「面白かった」など、たくさんの声をいただきました。
最近はバーチャル美術館やデジタル化された絵画をズームアップして鑑賞することもできるようになっています。IMAGICA GROUPにもそのような技術があると知り、この技術(※)を使えば、さらに名画に隠された秘密を楽しむこともできます。こうした革新的な映像技術とのコラボレーションで新たなアートの楽しみ方が提案できないか、興味は尽きません。本著を皮切りに、これからも天気に着目したアートの楽しみ方を広く伝え、学問としても深め、体系化していきたいと思っています。


※IMAGICA GROUPのグループ会社であるフォトロンの「Infinite Pixel Viewer」という製品。1億画素を超えるような超高精細画像に特化したデジタルプレゼンテーションシステムで、名画を拡大して細部まで鑑賞することができます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

本記事は2024年4月に実施したインタビューをもとに掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございます。


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