
絶望の先に希望がある 映画づくりは子育てのようなもの ~映画プロデューサーの仕事術|ROBOT プロデューサー 小出 真佐樹
IMAGICA GROUPのグループ会社で、エンタテインメント作品から広告コミュニケーション、最近ではデジタルコミュニケーションなど様々な分野に挑む ROBOT COMMUNICATIONS INC. (以下ROBOT)。同社で映画制作を手がけるプロデューサー 小出 真佐樹さんインタビューの第3回は、日本と韓国の映画業界の現状や今後の業界の展望、小出さんの仕事術に迫ります。
日韓の労働環境、システムの違いとは
日本と韓国では映画を取り巻く環境は随分異なります。「日本で映画をつくる」といえば、近年は改善されましたが、「かつては寝食を忘れて没頭する」。対して、韓国では完全週休2日制で、昼食時間は一斉に一時間休み。事前に各部への交渉が行われていないと、所定の労働時間が過ぎれば、撮影が佳境でも容赦なく照明が落とされます。日本の映画界も、是枝監督らが改善を訴え、労働環境もだいぶ改善されてきました。その分、製作費増になりましたが。
もうひとつ異なることを挙げると、日本が大手配給会社や放送局を主体に製作委員会を立ち上げ、リスクを分散してプロモーションまで手がけるのに対し、韓国では映画はあくまで投資の対象です。人気監督が演出し、知名度のある俳優が出演する作品にはCJやロッテが投資をしていました。その結果、どの作品も同じ顔ぶれで似たような内容の映画が増えていきましたが、勢いがある国でしたね。そのような状況も、コロナで一変しました。
絶望の先には必ず希望がある

コロナ下の韓国では映画館のアルバイト人件費が極端に減り、大手投資会社が映画の企画から一斉に手を引いてしまったのです。次第に韓国で商業映画はつくられなくなり、最近上映されている映画は、コロナ禍でお蔵入りになっていたものも多いです。配信ですら制作費に関して翳りが見えているのが現状で、制作プロダクションの廃業も増えています。
それでも韓国には釜山国際映画祭を筆頭に非常に数多くの映画祭があり、短編映画の発表の場が多くあります。低予算で男女社会格差や雇用問題、LGBTなどを捉えた良作を生み出す映画作家が新たに生まれているので、希望はあります。
一方、日本も『カメラを止めるな!』(2017年)をはじめとし、直近では『侍タイムスリッパー』(2023年)のように低予算で拡大公開され大ヒットするケースもありますし、藤井道人監督や松本優作監督、三宅唱監督のように、海外からも注目をされている監督がだいぶ増えてきていると思います。
今年の釜山のマーケットでも感じたのですが、「予算が減っているから」というネガティブな気持ちだけではなく、「自分たちの映画を作る!」という気概のある若いプロデューサーが増えていることを強く感じます。そういう方々が映画業界をまた元気にしていくと思います。
僕自身は、これまでに日本の原作から韓国での映像(映画・ドラマ)化、韓国映画から日本映画へのリメイクをプロデュースしてきましたが、いかに両方の市場でヒットにつながる作品を生み出せるかを考えているところです。そして、いままで以上に、韓国はもちろん、香港や台湾などアジアの映画を現地で体感してみたいと思っています。実際に現地に行くと、なぜその映画が当たっているかがよくわかります。映画のヒットには時代性も関わってくるし、文化を知るにはその国の社会を知る必要があります。中でも台湾映画界は気になっています。台湾では、2019年に台湾コンテンツの世界市場推進を目指すTAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー)が出来てから、一気に海外との共同制作や、ジャンルが豊かになったと思います。さらにいえば、インドや南米の映画市場も知りたいですね。そこには貪欲です。
映画づくりは子育てに似ている 誠実に向き合うことが肝要

それにしても本当にプロデューサーというのは難儀な仕事です…。映画がヒットすれば原作、監督、俳優の皆さんにスポットが当たり、映画がコケたら真っ先に責任を感じるのはプロデューサーです。仕事で楽しい時期は、企画が通って監督と脚本をつくるところまでですかね。あとはもう大変なことしかないかと。
監督、撮影、照明、制作各部からの要望、相談に乗ったり、呼び出しに応じる。予算やスケジュールなどの進行管理をしつつ、こだわり始めたらキリがない監督はじめクリエイターの皆さんに”現実”に戻ってもらうのもプロデューサーの役割です。
映画づくりって結婚して家庭をつくることに似ていると思うんです。これだ!と思う企画があって(結婚して)、子どもを育てていくようなもの。企画から劇場公開されるまでには3〰4年かかります。ちょうど、赤ちゃんができて、保育園・幼稚園に行くのと同じくらいの年数です。配給会社はその大切な子ども(作品)を託せる園という感じですね。
映画は一人ではつくれません。やりたい企画があるなら、仲間を増やす必要がある。だから、映画づくりで一番大事なのは、目の前の人に対して誠実であることだと思っています。そうやってみんなで手塩にかけて育てた作品は、真っすぐに育ってくれると信じています。
大変なことしかないと言いましたが、SNSで好意的なコメントを目にしたり、一人でも作品を理解してくれる人がいたら、もうそれだけで救われます。やっぱり映画は国境を越えて伝わる世界共通言語。自分の”やりたい”が、世界に届く仕事。だから映画づくりはやめられないのかもしれませんね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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本記事は2024年11月に実施したインタビューをもとに掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございます。