長距離ランナーでありながら、短距離走も! オー・エル・エムの多面性を解剖|オー・エル・エム社長・釜 秀樹インタビュー#1
『ポケットモンスター』シリーズや、『オッドタクシー』『薬屋のひとりごと』など、大人気アニメーションの制作を手掛けるオー・エル・エム。2024年4月より、釜 秀樹が代表取締役社長に就任し、さらなる飛躍に向けて新しいスタートを切りました。
次々とヒット作を生み出すオー・エル・エムとは、どんな会社なのか? また、釜は、今後のオー・エル・エムにどんなビジョンを持っているのだろうか。3回連載の第1回は、オー・エル・エムの「チャームポイント」を分析します。
様々な顔を持つオー・エル・エム
私は転職組で、オー・エル・エムに入社したのは53歳のとき。ずっと映像業界で仕事をしてきて、オー・エル・エムのことはよく知っているつもりでしたが、入社してみて、その幅広い事業群には非常に驚きました。
オー・エル・エムは1994年、三軒茶屋のマンションの一室からスタートしました。最初は10人弱での船出であったと聞いています。そして、1997年放送開始の『ポケットモンスター』、2014年放送開始の『妖怪ウォッチ』といったキッズアニメーションを軸に成長し、現在ではアニメーション制作にとどまらない、幅広い事業を展開しています。
①3DCG制作の強み
まず、『ポケモン』が始まったのと同じ97年に、オー・エル・エム・デジタルという3DCGを専門とする会社を立ち上げました。この段階でCGに目を付けた創業社長である奥野敏聡さんの慧眼は凄いと思います。それ以来着実に制作実績を積み上げ、今やCGは映像制作会社としてのオー・エル・エムグループにとって大いなる強みとなっています。
②R&D(研究開発)機能を持つ
さらにオー・エル・エム・デジタルにはR&Dのチームがあり、世界からとても優秀な研究者・開発者が集って映像技術の開発にあたっています。研究開発機能までを持つ制作プロダクションは非常に稀有ですね。これは、映像制作の未来に貢献していきたいという創業社長の強い想いによるものですが、その想いは取締役の四倉達夫を中心にしっかりと受け継がれていて、力強くオー・エル・エムグループの技術開発を牽引してくれています。
③三池監督の実写映像制作も手掛ける
また、オー・エル・エム・デジタルは現在、坂美佐子が代表取締役の任に就いていますが、その坂は三池崇史監督との仕事が長く、日本を代表する実写映像のプロデューサーとしての顔もあります。坂は海外の映画人脈も豊富ですので、オー・エル・エムの映像制作の幅を広げてくれています。
カンヌライオンズ国際映画祭2024のエンターテインメント部門で銅賞を受賞した三池監督の短編映画Midnight(iPhone 15 proで撮影された)もオー・エル・エムが制作を担当しています。
④グローバルに事業を展開
早くから海外に目を向けて事業を展開している点も、オー・エル・エムグループの特徴です。マレーシアにはOLM Asia SDN BHDがあり、これまでは主に2Dアニメーションの動画・仕上げの工程を担っていました。最近、経営体制に変更を加え、代表取締役には大久保力に就いてもらっています。今後は大久保を中心にアジア展開を次のフェーズに移行させていく予定です。
アメリカのロサンゼルスにはSprite Animation Studiosという拠点を構え、3DCG映像作品の企画、制作を行っています。監督である榊原幹典を中心に野心的な映像制作を行ってきましたが、最近では国際エミー賞にノミネートされた『ぐでたま~母をたずねてどんくらい~』や、世界各国で再生数上位にランクインし続けた『Hot Wheels』等をオー・エル・エム・デジタルと組んで送り出しており、欧米でのプレゼンスが急激に上昇しています。
⑤ベンチャーキャピタルとしてスタートアップ企業を支援
また、ベンチャーキャピタルであるオー・エル・エム・ベンチャーズは、主にエンタテインメント関連のスタートアップ企業に投資をし、成長を支援しています。ベンチャーキャピタルを行う制作会社というのも非常に珍しいのではないでしょうか。こちらは立ち上げ時から横田秀和(株式会社オー・エル・エム・ベンチャーズ 代表取締役)が専ら行っている事業ですが、今後も引き続き夢のある投資先を探し出し、大きく花を咲かせるお手伝いができればと考えています。
以上の通り、オー・エル・エムグループは様々な顔を持ちますが、そのすべての事業には映像業界に貢献していくという一貫したポリシーがあります。私もその想いを守りつつ、より拡大していくことを目指しています。
キッズアニメーションを制作することの重み
様々な事業を手掛けるオー・エル・エムですが、その中心にあるのはキッズアニメーションの制作です。
当社が作るキッズアニメーションは、ポケモンや妖怪ウォッチに代表されるように、長期にわたり放送されるもの。日本だけでなく、世界中の子どもに親しまれる作品です。
私たちが送り出す作品は多感な子どもたちの人格形成に少なからず影響を与えるはずですので、その責任は非常に重い。
毎週、その意識をゆるめることなく制作にあたること。さらには、長期間息切れすることなく、継続する力も必要です。
また、そういった作品はビジネス的な側面を制作現場にスムーズに落とし込むことも常に要求されます。テンションをキープしながら、ビジネス的側面も忘れず、クオリティを下げずに制作を継続する。これは、実は非常に難しいことであると、ほかのプロダクションの方からもお褒めいただいたことがあります。
ポケモンは今年放送27年目を迎えていますが、世代を超えて愛される作品を作り続けていることはオー・エル・エムの強みであろう、と思います。
長距離と短距離、二刀流のプロダクションに
1クールや2クールで放送されるアニメーションが短距離走だとしたら、4クール以上の放送となるキッズアニメーションは長距離走。オー・エル・エムは、長らく長距離走専門ランナーとして走り続けてきました。
しかし、2020年からのコロナ禍が転機となり、我々の専門領域にも変化が生まれ、結果として深夜帯の大人向けアニメーションも手掛けるようになったのです。
きっかけは、突然のパンデミックで制作がストップとなるキッズアニメーションの案件がいくつかあったこと。そこで、なんとか活路を見出そうと取り組んだ最初の大人向けアニメーション作品が、イマジカインフォスさん原作の『異世界食堂2』です。
『異世界食堂2』の制作チームも、直前までキッズアニメーションを担当していたメンバーで、いわば長距離走専門に鍛えられてきた人たちです。それでも私が誇らしく思うのは、彼ら全員が真摯に作品作りに向き合って、短距離走である1クールアニメーションの制作に順応していってくれたこと。
大人向けのアニメーション制作でも評価をいただき、『オッドタクシー』や『薬屋のひとりごと』などのヒット作にも恵まれたことは、私たちにとっても大きな励みとなっています。
キッズアニメーションを主力にしながらも、大人向けのアニメーションも並行して制作できる会社になった。これは、我々オー・エル・エムの新しいチャームポイントであろうと考えています。
次回は、長らくプロデューサーとしてさまざまな映像作品に携わり、「だから映像制作はやめられない」と語る釜の仕事哲学に迫ります。お楽しみに。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事は2024年6月に実施したインタビューをもとに掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございます。