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リスクを恐れずに、信念ある選択ができる企業に|オー・エル・エム社長・釜 秀樹インタビュー#2

ポケットモンスター』シリーズや、『オッドタクシー』『薬屋のひとりごと』など、大人気アニメーションの制作を手掛けるオー・エル・エム。2024年4月より、釜 秀樹が代表取締役社長に就任し、さらなる飛躍に向けて新しいスタートを切りました。
次々とヒット作を生み出すオー・エル・エムとは、どんな会社なのか? また、釜は、今後のオー・エル・エムにどんなビジョン持っているのだろうか。3回連載の第2回は、釜の仕事哲学に迫ります。

●第1回はこちらです


前社長の一声で新たなステージに

株式会社オー・エル・エム代表取締役社長 釜 秀樹(かま ひでき)
Profile:大学卒業後、1990年に東宝株式会社に入社。ビデオセクションのプロデューサ ーとして多くの作品に携わる。2019年にオー・エル・エムに入社。2023年 、オ ー・エル・エム取締役副社長に就任。2024年4月より現職。

私自身の経歴を少しお話ししたいと思います。
新卒で東宝株式会社に入社したのが1990年。約20年にわたり、ビデオセクションのプロデューサーを務めました。
簡単に言えば、VHS、レーザーディスク、DVD、Blu-rayといったパッケージ商品を販売するための、映像の調達係です。制作もするし、買い付けもするし、とにかくいろんな手段を使って、映画、アニメーション、ドラマ、テレビ番組などの商材を調達する役割でした。英語はからきしダメなのに、外国映画の輸入買い付けもやりましたね。
こと映像に関しては、相当幅広い仕事をしてきた、と思います。

一度、会社を辞めてみるかと一大決心をしたのは53歳のとき。大変お世話になったオー・エル・エムの前社長、奥野敏聡さんにも報告に伺いました。
「奥野さん、ついに私、辞めることにしました」と申し上げたら、「そうか。いつから来るんだ?」と。辞めた後のことは深く考えていなかったので驚きましたが、気づいたら入社が決まっていました。

40代後半からの私は、プロデューサー職を離れ、経営企画や宣伝に従事していました。奥野さんからは時折、「また何か作りたくなったら相談しに来いよ」と言われていたんですね。奥野さんは、私のなかに眠っていた「作りたい」という欲を見抜いておられたのだと思います 。

その日の帰り道、「妻になんて説明しよう」とドキドキしながらも、やはりどこかにワクワクする気持ちがあったことを思い出しますね。

だから映像制作はやめられない

オー・エル・エムのタイムシート(アニメーション制作における指示書)。

長くプロデューサーとして働いてきて思うのは、こんなに気持ちの動く仕事はそうはないだろう、ということです。

プロデューサーの仕事は、「この企画をやるぞ!」と息巻くところから大体の場合はスタートするわけです。ただ、楽しいのは企画書を書き、企画を通し、シナリオを作っている間ぐらいまでかもしれません。
あとはほぼ毎日、「なんでこんなこと始めちゃったんだ」「最悪だ」「消えてしまいたい…」などと何かを呪ったりしてました。私だけかもしれませんが(笑)。ただ、そのくらい、毎日何かしらトラブルが起きる。プロデューサーの仕事の大半はトラブルシューティングなわけです。

それで、もう二度とこんなとはやるまいと毎度固く決意するのだけど、映画館から子どもたちが「おもしろかったー!」と飛び出してくるのに出くわしたりすると、その決意はいとも簡単に覆る。
さあ、次は何をやろう、とまた立ち上がってしまうわけです。

今だって、ふと我に返ると、「50代後半にもなって、俺はなんでこんなに苦労してるんだ」と思うこともありますよ(笑)。でも、やはりこの仕事がくれる興奮というのは癖になるのかもしれません。現在はプロデューサーとして現場に立っているわけではありませんが、たとえば新しいポケモンシリーズを観ると、頑張ろう、やってやろうという気持ちが湧き上がってくる(最新シリーズ、すばらしいジュブナイル※の冒険物になっていて、大好きなんです、ぜひご覧ください)。
やはり映像の仕事はおもしろい。改めて、そう実感する毎日です。

※ジュブナイル…少年少女・児童期といった子ども向けのという意味。

ポリシーのあるリスクテイクを

これまで数多くの作品に様々な形で携わってきました 。ヒット作もあれば、残念ながらヒットには至らなかった作品もあります。
映像事業というのは、投機性が伴うものでもあります。ヒットするかどうかは蓋を開けてみないとわからない。
だからこそ、そこで果実を得ようと思うならば、ポリシーを伴うリスクテイクが必要
です。

私にそのことを痛切に教えてくれたのが、東宝時代でのある年の外国映画の買い付けの失敗です。
その年、大きな作品が二つ売りに出ていました。いずれも提供されている情報は、簡単なストーリーと監督、主要キャストだけ。それだけで判断しなければなりません。一つは『指輪物語』を原作とした3部作の大きなシリーズ。監督はピーター・ジャクソン、主演はイライジャ・ウッド。どうにも昔の名前感が拭えない印象。何よりも、日本で『指輪物語』が原作の映画が当たったためしがないにも拘わらず、売値が高く設定してあり、さらに3部作ですので総額はかなりのものになっていました。
もう一つは、最盛期のブラッド・ピットとジュリア・ロバーツのW主演で伝説の拳銃をめぐるラブロマンス&アクション映画。こちらもかなりの高額でしたが、1本だけですので総額で見ると半分以下ではあります。私も会社を代表してマーケットに出張してきているのですが、当然会社の判断を最終的には仰ぐ必要があります。が、その会社の最終判断には現地からの私のレポートがかなり参考とされるわけで…私のレポートは「指輪物語は危険」というものでした…。

結果、私たちが買った映画は『ザ・メキシカン』というタイトルで全国公開されましたが、ほとんどの方がタイトルすらご記憶にないのではないでしょうか。それに対し『指輪物語』原作の方は、改めて解説の必要もないかと思います。

後者の買い付けを行った方々も、当然ながら私が考えたようなことは考えたはずです。しかし、それをすべてひっくり返すようなポテンシャルを見抜き、リスクを取る覚悟をしたのだろうと思います。あまり良い例ではなかったかもしれませんが(笑)、中途半端な投資ほどリスキーなものはないことの好例かと思いお話しさせていただきました。

今後、オー・エル・エムにも、またIMAGICA GROUPにも、そういう覚悟が必要とされる場面が出てくるでしょう。映像業界で果実をとるためには、ときに大きなリスクをとる覚悟も必要。そこはしっかりと見極め、ポリシーを持って選択をしなければならない、と考えています。

次回は、オー・エル・エムと釜がめざす「理想」をテーマにお届けする予定です。お楽しみに。
最後までお読みいただきありがとうございました。

本記事は2024年6月に実施したインタビューをもとに掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございます。

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